雑念博客

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ゲストハウスの実態

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僕は現在ゲストハウス『死を待つ人の家』に住んでいる。

いや、正式にはオーナーがつけたまともな名称があるのだが、僕がそう呼ぶには理由がある。

思い返せば大学卒業以来、一般的な賃貸物件に住んだことは一度もない。

定住という形を取る状況になかったのが原因だ。

さて、今回は実体験に基づいたゲストハウスの実態に迫ろうと思う。

なお、実際にゲストハウスに住みどのような印象を持つかは人それぞれなので、あくまで主観であること、それと他のゲストハウスの事情は知らないので、ここに限った話しであることを最初に断っておく。

 

なぜゲストハウスなのか

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『死を待つ人の家』と揶揄しているこのゲストハウスに最初に住んだのは、さかのぼること10年近く前の話しだ。

基本的にゲストハウスは家具付き、敷金・礼金・保証人不要と、とりあえず生活を始めるには手っ取り早い。

キッチンやシャワー等の共有スペースは、当時オーストラリアワーホリから帰って来たばかりの僕にとっては何の抵抗もなかった。

むしろ、オーストラリアでドミトリー生活をしていたので、個室であるこのゲストハウスのほうがずっとマシに感じられた。

そして、金銭的な問題。

今となっては一般の物件とさして変わらないが、当時はまだ割安感があった。

と言っても、当時はもっと安かったが、現在でも神田駅徒歩1分の立地で光熱費・ネット代込みで47000円だ。

相場からすると割安なほうである。

当時のゲストハウスに対する印象は、主に外国人や海外経験のある者が必然的に多く集まって来る場所なのだろうと考えていた。

しかし、これは大きな間違いであったと後々気付くことになる。

 

住人

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住み心地の良し悪しを決めるのは、住人がすべてだ。

現在は、7階まであるうちの1階に小料理屋が入っており、2階から4階に6名、5階に5名、6階に2名、7階にオーナーが住んでいる。

なお、シャワールームは2階・5階・6階にあり、洗濯機2台とキッチン・リビングが6階、トイレは各階にある。

では、時系列で以前住んでいた時に印象に残っている住人を挙げていく。

キラコ

イケイケうぇーい寄りの、当時20代半ばの女の子だ。

自己主張の強いタイプで、気に入らない事があれば貼り紙をしていた。

今思い返せば可愛いものだったのだが、当時はあまりの素行にオーナー含め住人同士で会議が開かれた。

その後は半分追い出されるような形で、もっとも早くここを去って行った。

今思えば正解だ。

共有の物干し場に下着類を干していたところ、「女の子なんだからさぁ…」とオーナーに注意され、「なんで?!そんなのただの男女差別じゃん!!」とプンスカしていたのが印象に残っている。

黒太郎

下衆の極みである。

僕はこの女ほどの下衆を見たことがない。

初期メンバーのひとりで、当時アラフォーの女だ。

初期の頃はおとなしく目立たなかったが、キラコが去った辺りからめきめきと頭角を現し、すっかりお山の大将となった。

口を開けば愚痴か他人の悪口、決して自分から直接手を下すことはないが、周りの人間を使い人をいじめる。

平気で大嘘をつき、事実を大きく曲げて第三者に伝える。

彼女の話す事は、そのほとんどが虚言と戯言だ。

精神病を患っているわけではない。

どうしてこのような人間になってしまったのか、環境により人格が形成されるのならば、彼女もまた被害者なのかもしれない。

派遣社員、失業保険、職業訓練を活用し生活している。

本人曰く婚約者がいるとのことだが、かれこれ10年近くここにいる。

彼女の残した名言

『生きるのはめんどくさいが、死ぬつもりはない。』

イタコ

当時30代半ば、躁鬱病を患っている。

自分がこのような状態なのは彼氏がいないからだそうだ。

思い込みだよと助言してあげたいのだが、それはできない。

なぜなら、お友達ではないからだ。

調子の良い時は普通に会話もできるし、彼女に対し嫌悪感もない。

ある日仲の良かった同居人とリビングにいると、「お前らキッチン使うなら掃除ぐらいしろや!!」と唐突にキレられたのが印象深い。

仲の良かった同居人が、何もしてなくてもあんな理不尽に怒鳴られるんだなと、引っ越しを決めたきっかけになった出来事だ。

ウマコ&セイネン

当時20代半ば、ごくごく普通の若者なのだが、若者がひとつ屋根の下に住めばそれ相応の事が起きるのは必然だ。

ふたりともまったく害のない人当たりの良いまっとうな人間なのだが、事が起きた後セイネンが昔小6と性行為に及んだことがるということが判明し、ウマコが犯罪者とそんな事をしてしまったと当時の住人たちに言いふらした。

この一件の後、早々とここを去って行ったのだが、なぜか数ヶ月後に戻って来た。

当時は、この女キモチワルイなと思ったものだが、今となってはカワイイものだ。

彼女も若気の至りだったのだろう。

チキータ&チキオ

チキータは当時20代後半、当時の僕と同世代、美人でスタイルも良く背も高く、服装や化粧から察するに、夜の商売の人だったのだろう。

いたってまともだったので僕としては好印象だったのだが、この手のタイプの女性には黒太郎が黙っていない。

姑息な手段で彼女に攻撃を始めるのだが、それは後述する。

そしてもうひとり、彼女と一緒に移ってきた男がいる。

カップルということだったのだが、どうも吊り合っていない。

その後判明したところによると、事実は相当根深かった。

チキオは当時37歳、無職ヤンキー、酒飲み暴力男である。

チキータの話しによると、どうやら彼女はチキオに付きまとわれていたらしい。

いや、正確に言ったら寄生である。

カップルであるはずなのに部屋は2部屋借りており、家賃はすべてチキータが払っていた。

その後はオーナーの協力もあり、なんとかチキオから解放されるに至るわけなのだが、その間大きな事件が勃発する。

白太郎

当時30代半ば、精神病、生活保護受給者の女だ。

彼女のことは非常に強く印象に残っている。

一時期隣りの部屋に住んでいたこともあり、夜な夜な聞こえる彼女の泣き声が今も耳に残っている。

すすり泣くどころではない、泣きわめくといった表現のほうが正しいぐらいであった。

それだけではない。

リビングでテレビを観ていると、突然タッタッタッタッとキッチンへ駆け上がってきたと思ったら、唐突に泣き出すのである。

よほど辛かったのだろう。

そんなある日、キッチンへ行くと、そこに散髪をした彼女が立っていた。

思わず二度見した。

ボウズになっていたのだ。

女性である。

いや、ただのボウズだったのならそれほどではなかったのかもしれない。

おそらく、夜中に衝動的に散髪したのだろう。

ハサミで無造作に切り込まれたその頭は、まるで力づくで髪をむしり取ったような様相を呈していたのだ。

せっせと調理をしているあの後ろ姿が目に飛び込んできた時の、率直な感想はこうである。

「こりゃヤベーな。」

そんな彼女であったが、ある日彼女なりに息抜きの時間を作り出した。

ニンテンドーWiiとマリオを購入したのだ。

生活保護の給付金で。

ある日何人かでテレビを観ていると、スッと現れヒナタのようにオドオドしながら小さな声で、「あの…、マリオ…やってもいいですか?…」と呟いた。

もちろん我々は快諾し、彼女は喜んでマリオをプレイし始めた。

Wiiのマリオをプレイしたことのある方はご存知だと思うが、Wiiのマリオはコントローラーを上下に振る動作がある。

普段はカメのようにゆっくりおっとりとした白太郎が、この時ばかりはまるで息を吹き返した魚のように俊敏に、からだ全体を小刻みに痙攣させたのだ。

必死だった、笑いを堪えるのに。

その映像が、その年1年でもっとも衝撃的であったことは言うまでもない。

それからほどなくして、ある日そのWiiが盗まれた。

高い確率で内部の人間の仕業だと推測するが、証拠も何もない、当然それが戻って来ることはなかった。

彼女は限りない憤りとやり場のない怒りを感じただろう。

生活保護の給付金とは言え。

それからしばらく経ったある日、リビングで同居人とテレビを観ていると、スーツ姿の彼女が音もなくスッと現れ、ヒナタのようにオドオドしながら小さな声でこう呟いた。

「あの…、今度面接することになったんですけど…、これ…変じゃないですか?…」

そもそも彼女はコミュ力の高いタイプではない。

ましてや男性陣に進んで話しかけることなど滅多になかった。

そんな彼女が、こんな他愛もない事で話しかけてきたのだ。

我々は思った。

「そうだ、彼女も必死に生きようとしているのだ。」

その後、ある事件が勃発する。

前述した、黒太郎とチキータ&チキオの一件だ。

ある時から食料・食材の盗難が頻発すようになった。

そう、ちょうどチキータ&チキオが引っ越してきた辺りからだ。

チキータを快く思っていない黒太郎は、確たる証拠もないまま、チキータが盗んだに違いないと、白太郎をそそのかし始めたのだ。

それを聞いた白太郎はすべてを真に受け、思わぬ行動に出た。

チキータの食料入れのカゴに貼り紙をし出したのだ。

「食べ物を盗まないで下さい。みんなが迷惑をしています。」と。

チキータからすれば、飛んだ濡れ衣である。

当然チキータも黙ってはいられない、穏やかな状況ではなくなった。

しかし、チキータは大人だった。

頭には来ても、あまりまともに相手にしないという行動を取った。

しかし、チキータ以上に黙ってはいられないという者が現れた。

チキオである。

37歳無職ヤンキー、酒飲み暴力男の登場である。

さすがに暴力沙汰にまでは発展しなかったが、酒に酔い勢いづいたチキオは白太郎を恐喝した。

白太郎は震え上がった。

しかし、白太郎以上に震え上がったのは黒太郎だ。

そもそも彼女は気が弱い。

陰では強く出るが、当事者になった途端に怯え始めた。

黒太郎としても、白太郎の行動は想定外だったらしい。

あそこまでやるとは思わなかったようだ。

僕は思った。

「醜いのぉ。」

チキオのイライラはしばらく収まらなかった。

僕と黒太郎ともうひとりとリビングにいると、誰かが来る足音が聞こえた。

すると、黒太郎がきょどり出した。

チキオだ。

黒太郎はスススッと立ち上がり、サササッと退散した。

野生の勘が働いたのだろう。

ウイスキーボトルを片手に、酒に酔ったチキオはドカッと座り込み、僕ともうひとりに愚痴を吐き始めた。

「むかつくなぁ、あのデブ。そう思わねぇ?なぁ、そう思うよなぁ。なぁ、お前、友達になろうか。」

うざかった。

飛んだトバッチリである。

あの時のチキオは、白太郎が目に入った途端殴りかかりそうな勢いだった。

「確かにむかつくけど、だからと言って暴力はいかんよ。」と、僕と一緒にいた同居人になだめられていた。

その後、事が大きくならなかったのは、当の被害者であるチキータの一存も影響していると推測する。

そもそもチキータはチキオから逃れることのほうが重要で、盗んだ盗んでないだことの、そんなくだらない事にいちいち付き合っていられるほどの精神的余裕などなかったのだ。

貼り紙という意思表示を覚えた白太郎の素行が目立ち始めたのは、この頃辺りだったかと思う。

ほどなくしてオーナーから注意勧告を受け、この館を去って行った。

その後彼女がどこで何をしているのか、知る者は誰もいない。

チョリオ&キチコ

オーナーの友人とその彼女である。

個人的にいけ好かない奴らだったのだが、このふたりが毎晩のようにデカい声で大喧嘩をしていた。

当時50過ぎのおっさんと30過ぎのいい歳した大人が、他の住人に丸聞こえのゲストハウスで、である。

同じフロアに住んでおり、僕の部屋とは真逆、つまり端と端の位置関係だったのだが、僕の部屋まで筒抜けだった。

共依存なのか、あれほどの大喧嘩を毎晩のようにやっても別れないでいる心理が、僕には理解できない。

「痛い!!痛い!!触らないでって言ってるでしょ!!」というキチコの悲痛な叫びが、今でも忘れられない。

アシクサキチ

面識はない。

ニオイだけだ。

彼は悪くない。

臭かったのはアシではなかったのかもしれない。

ワキだったのかもしれない。

しかし、においはアシだ。

残り香すら凄まじかった。

クレームが殺到し、ほどなくして去って行くこととなった。

何度も言うようだが、彼は悪くない。

ウンコマン

面識はない。

ウンコだけだ。

彼は悪くない。

おそらく病気か何かだったのだろう。

便器の周りにはいつもひとつふたつコロンと転がっていた。

液体ではない、固体である。

僕の部屋はトイレの前だったので、部屋のドアの前にひとつコロンと転がっていたこともあった。

ある日、チョリオに怒られていた。

当然だ。

洩れるのは仕方がないとしても、放置はダメだ。

いや、彼は悪いのかもしれない。

 

そして現在

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あれから5年の月日が流れた。

前回住んでいた時の終盤、様々な闇を目の当たりにしてきたせいか、辟易としていた。

なので住人たちとは努めて絡もうとはせず、ただただ穏やかに暮らすことに努めた。

ちなみに、黒太郎・イタコ・ウマコ・セイネンの4人は現在も住んでいる。

僕が出て行く頃は、お山の大将である黒太郎を筆頭に、若い衆らで和気あいあいとやっていたようだが、今は静かなものだ。

あの黒太郎ですら、ひっそりと暮らしている。

共有スペースで住人を見かけることはまずない。

人が集まらなければ、事件は起きない。

この5年間に、きっと様々なドラマが繰り広げられたのだろう。

5年という歳月の長さを感じずにはいられない。

誰にも使われることなく埃をかぶった食器類も、時間の経過を物語っている。

だが、相変わらず食料・食材の盗難は続いているようだ。

容疑者はいるのだが、証拠がないため犯人を特定できない。

事なかれ主義のオーナーは、事を荒立てたくないがために、対処する気は一切ない。

あれ?ここ日本だよねぇ?

海外の安宿でもないのに、なぜこんなにも盗難を警戒しなければならないのか。

我が国はこんなにも治安の悪い国だっただろうか。

共有スペースに人が集まらないのはのんびりできて良い反面、住人たちの素性を知ることができない。

ただ、確実にとんでもなく臭い奴がひとりいる。

そして、6階の住人がひとり警察に連れて行かれた。

何をしたのかは知らないが、1週間ほど前に連行され、今もまだ帰って来ていない。

ここまで、ネガティブな要素ばかりを書いてきたが、ポジティブな要素もある。

それは、ここで知り合った友人がおり、現在も付き合いが続いているということだ。

彼も僕と同様、ここに戻って来て今ここに住んでいる。

僕も彼も、このような物件に住むことに対して抵抗がないのは、世界のきったない安宿で幾度となく寝泊まりしてきたという経緯があるからだ。

と言っても、まったく抵抗がないわけではない。

世間体を気にしたら、ここに人を呼ぶことはまず無理だ。

まともな水準の生活を送ってきた者からしたら見学の時点でアウト、とりわけ女性は絶対に住めない。

今となっては、当初持っていたゲストハウスの印象とは大きく変わった。

田舎から上京してとりあえずの仮住まいとして住み始め、仕事が決まり次第、もしくは金が貯まり次第出て行くという連中は、至極まっとうな人間だ。

実際、そういったまともな連中は早々にして退去している。

現在僕の持っているゲストハウスの印象はこうだ。

ゲストハウスとは、何かしらの事情を抱えている者・心に大きな闇を抱えている者・ひきこもり・低所得者など、いわゆる社会的弱者の受け皿になっている。

僕がここを『死を待つ人の家』と揶揄するのは、あまりに黒太郎と白太郎の印象が強いからだ。

しかし、こうして改めて文章に起こして読み返してみると、『死を待つ人の家』と言うよりは、『人間交差点』と言ったほうが適当かもしれない。

『現実は小説よりも奇なり』とは、よく言ったものだ。